パックラフトでソロの四万十川

+キックボードで、源流から河口まで辿った2023年秋の記録。

源流部後半は「それなんて修行?」

 [2018年10月16日]

12:00 - 16:00 美留和橋 - 摩周大橋

 時間はちょうど12時過ぎ。流速と、本日のゴールの摩周大橋までの残りの距離を考えれば、まあよほどのトラブルでもない限り日没前には到着できる、よい進捗具合です。ただまあ、なんといっても今回の川下りの最大の難関(?)といえる"土壁"がこのあと待ち受けているようなので、あまりゆっくりもできません。昨日スーパーで買っておいたおにぎりを早々に摂取完了し、出発準備に取り掛かります。

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 ところで、ひとつ気になったのが傍らにあった看板。「開発橋の下流500mの地点で工事(中略)工事は平成30年9月5日までの予定」って、これはつまりここさえ気をつければ摩周大橋の先から標茶までも下ってよし、ということなのか??? すごく魅力的な内容でしたが、40半ばで多少子供じみたことを控えるようになったおじさんとしては、ぐっとこらえて摩周大橋からポーティングの予定を変えないことにしました。

 さて、Google Mapで地図を眺めて貰えればわかりますが、美留和橋から下流の後半は、最初こそ直線が続くものの、以降は「糸くずか!」というくらいぐにゃぐな川すじになります。もっとも、Google Mapを航空写真に切り替えるとわかるのですが、もともとこの辺はどこもかしこもぐにゃぐにゃだったのを、部分的に直線化工事したようですね。今は手軽にこうして元の流れの痕跡が確認できて大変便利です。

 ということで、直線区間は早々に終わり、ぐにゃぐにゃ区間に入ります。ぐにゃぐにゃ、かつ倒木。これがまたしんどい。この年は、初夏から秋にかけて関西やら熱海やらをズタズタにした台風がいくつも来たためか、川の倒木がこれまでよりはるかに多いです。しかも、シーズンオフでこの区間(美留和橋から下)を下る人はほとんどいないせいか、枝払いもほとんどなくなってきてしまいました。

「いやこれ、詰んだでしょ??」

 という、川幅すべてを覆う倒木の連続。都度、瞬時にコースを決めていちかばちかで突入しますが、美留和橋までと異なり、いわゆる競技カヌーのようなZ字移動、つまり一度くぐって即船を180度反転、遡って斜めに移動、しかもこれをたかだか数メートルの距離内で行う、みたいな、ちょっとのんびり川下りとしてはありえないハッスルぶりを要求されます。これ私は船の長さが2mもないパックラフトだから良かったですが、普通のファルトやインフレータブルでは「ででーん、全員、アウトー!」じゃないですかね。

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 そういえば思い出したのが、前半の美登里橋からの下流で、唯一お会いした川下りの人が、ポリ艇にヘルメットという完全装備の女性。「いや釧路川にそこまでは必要ないだろう」とたかをくくっていたのですが、その装備のすべてはこのあたりのためにある、とようやく理解しました。ポリ艇ならたしかにちょっとした倒木は突破できますし、そうでなくともこれは流木に絡まってつまらない沈をするという、いわゆる質素な沈、そ...(自重)の恐れがつきまといます。ちなみにこの女性は、時々笛も吹いていて、「バードコールですか?」と聞いたら「いえ、熊よけです」と風情と正反対の回答をされていたりしました。あきらかにこのあたりの事情に精通しているかたでした。

 さて、精通どころか真逆で舐めてる度100%の私の方は、この倒木の連続に延々と苦しめられました。特にパックラフトの場合、倒木にひっかかって穴があいたら一発アウト。ファルトなら多少の穴開きはテープで修正できますし、普通のインレータブルだって少しこすったくらいでは穴があかないくらいの素材になっています。一方パックラフトは、軽量化のためにギリギリまで薄くされた素材。一度でも底をこすってしまったら沈確定、もうそこで川下りは終了で道路への脱出を試みなければなりません。一度だけ、完全に川幅100%を倒木が覆っている箇所があり、ギリギリ倒木が水面下に沈んでいるかどうか?程度のところがあってそこを強行突破するしかルートがなく、突っ込んだところ「ずりずり」と木の肌触り100%な、いやーな感触がお尻を通過。すわ、アウトか、と底を見ましたが、一応穴はあいてないようでした。

 時々スマートウォッチで現在地、および現在時刻を確認しますが、進捗はつねに微々たるもの。なんていうかはてしなく続くぐにゃぐにゃ。もはや川下りというより、耐久戦とか我慢大会とか修行とか、そいういったたぐいのものになってきました。

 「あれ、なんでわたくし、こんな苦行してるんだっけ?」

 楽しい川下りに来ていたはずが、苦労苦痛に悶え苦しむ自分に気付かされます。しかしその一方で、マラソンやら登山やらと異なり、100%常時苦しいのともちょっと違います。倒木は頻繁に遭遇しますが、別段倒木の林の中を進むのでもなく、数メートルから数十メートルおき。あとは川の流れに任せておけば、ある意味右に左に頻繁に蛇行するだけのただの川です。1-2分おきにくる倒木対策を都度「えいやっと」やっつければよいだけ。

 「苦行も、流れに身を任せておけばだいたい淡々と流れる。」
 「技術を使うのは一瞬。」
 「仕事なんかもそうじゃね?」

 キタコレ。昨日に続き瞑想タイムです。一人旅のある種醍醐味でもあります。
 ということで、倒木続きの蛇行の極みを淡々とこなしていきます。

 そしてふと周りを見渡せば、前半でも書きましたが野鳥の宝庫。特に白いボディにトゲトゲとさかが特徴的なヤマセミさんが、「キーッ」と特徴的なするどい声を響かせながら、まるで道案内でもするかのように、ちょっと先の枝に止まってはこちらを眺め、接近するとまた飛んでいく、という行為を繰り返します。なわばりがあるようで、1-2km下るといつの間にかどっかにいってしまうのですが、またしばらく下ると別の個体と思しきものが現れ、同じように道案内してくれます。

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 そうこうしているうちに、いよいよ問題の「土壁」に接近。事前の予習では、「手前にテープが下がっているのでまずはそこで船を降りて偵察すべし。年によって状態が違うけど、だいたい倒木が「ストレーナー」(漉し器)状態になっていて、そこに吸い込まれてカヌー破壊」みたいな物騒なことが書かれてましたが、困るのは人によって指している場所が結構違うところ。ビビリーなわたくしは、おかげでだいぶ前からスマートウォッチの地図を睨みつつツインビーのボス戦のBGM(ほとんどだれもわからないでしょうね...)が頭の中に鳴り響き、緊張しまくってましたが、実際の場所はどなたのものも正解ではなく、私が上記Google Mapに記して置いたものが正確な場所です。

 テープ発見。

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 ということでまずは船を降り、岸側を藪漕ぎして下流を偵察。
 うーむ、とてもいわれているような難所には見えない。たしかにこれまでと違い、瀬にはなっているけど、いわゆるストレーナー的なものは見当たらない。どこかの記事で見かけた、右側の流れには倒木があるので左側を行くべし、みたいなことを思い出し、左側と思しき支流をチェックしますが、むしろそっちのほうが倒木で埋まっており、というかそもそも船でくれそうな流量もありません。むしろ土壁を抜けて右側にカーブしたすぐ先にある倒木がちょっといやらしい感じですが、これまで遭遇してきた倒木から比べれば大したことはない感じです。

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 ということで、ポーティングも覚悟していた土壁ですが、決断は「GO!」ということでそのまま突入。結論から言えば、「え?」というくらいあっさり終わってしまいました。後半の倒木がちとトリッキーだっただけで、別段これまでの倒木と比べて難しいことはありません。どうも、個人的な予想ですが、先に倒木盛り盛りで悩ませた台風が、ここ土壁に関しては倒木を流してくれ、どおってことないただの瀬にしてくれてたのではないかと思います。

 ちなみに、私のうろ覚えでは「土壁」なんて難所、野田知佑さんの川下り記録にはでてきてなかったなあ、と思っていたのですが、その後改めて「日本の川を旅する」を読み返したところ、「土壁」という名前はでていないものの、とある瀬で沈、道路まで脱出、みたいな記載がありました。釧路川源流の瀬といえば美留和かここくらいなので、どうもここで沈されたみたいですね。

 ということで、今回の旅行最大の難関(?)を無事終え、あとは淡々と進みます。いつの間にか天気はくもりからぽつんぽつんと大粒の雨がおちてきて、そしてそれは遅からずぼちゃぼちゃといった夕立の様相になってきました。ただ、こちらは最初からゴアのカッパ着てますので何の問題もないですし、むしろ明るい空と暗い空が共存するなかで、大粒の雨が川に落ちる音の不思議な心地よさ、などなど、雨もまたエンターテインメント、といった感じで楽しみました。

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 そして最後の予想外のプチ瀬を抜け、無事に摩周大橋にゴールです。丁度3時頃、実に後半だけで3時間程度の壮絶な倒木との戦いでした。