パックラフトでソロの四万十川

+キックボードで、源流から河口まで辿った2023年秋の記録。

今度こそ川旅の始まり。そして湖、凪、鏡。

2023年10月20日(水)

3日目の日程:江川崎ー口屋内...のつもりが中村まで


 3日目の朝。例によって濃い川霧が立ち込めています。しかも昨日とは違って今日は天気が下り坂。予報によると午前中は晴れ間も見えるが昼過ぎから雨がぱらつく、となんとも微妙な空模様。

 
 まあ、どうせ川に漕ぎ出せば多少は濡れるわけだし、そもそも雨が降ったところで停滞するほど日程にも余裕がないので出発するしかありません。ということで、昨日と同様さっさと撤収してようやく本当に川旅の準備。昨日試し乗りして膨らませたままのパックラフトに念のため改めて空気を入れ増しし、ザックとキックボードを取り付け、いよいよ出発です。ただ、イメージではどちらかというとザックにパックラフトが装着され、ポーティングの際にはザックを背負えばパックラフト+キックボードが軽々とついてくるようなのを想定していたのですが、どうも取り付けが甘いのか全体的にくにゃくにゃして安定しません。ここにきて事前の練習の甘さが露呈してきているのですが、あまり時間をかけてもいられないので何はともかく出艇することにします。時刻は丁度7時頃。

 
 バイクツーリングの方もなぜか湖畔まで見送りに来てくれました。まあ物珍しいですよねやはり。
 
 観客がいる手前、颯爽と出発するつもりだったのですが、何しろ上記の通りいろいろ詰めが甘いパッキングですから、荷物全体の固定がゆるく、船全体に不自然な揺れを感じながら出艇。とりあえず漕ぎだした瞬間に沈、とかはしなくてよかったです。さよーなら、とお別れを告げて進み始めたものの、出発地点は瀞場の上、即ポーティング必須のところだったので、100m位進んだらあっという間に中岸に上陸です。なんとも色々しまりません。

 中州を乗り越え、キャンプ場と反対側の本流に船を浮かべ、改めて出発です。ようやく川旅の本格的な始まり!!...と思いきや、肝心の防振万年手袋を川岸に置き忘れてしまいました。100m位下ってようやく気づき、慌てて接岸して取りに戻ります。一人旅の時はこういう間抜けっぷりが時として致命傷になったりするので気を付けないといけません。
 
 本当に今度こそ、出発。最初こそ多少の瀬になっていましたが、いきなり湖のような瀞場に。基本マターリだ、と言えば聞こえがいいですが、流れがほぼゼロだとマターリとはいかず、むしろガツガツ漕がないと進みません。前回の釧路川の記録でも多少ご紹介しましたが、特にこのパックラフトは全長が短く、空荷の状態だとパドルを漕いでもその場で右往左往する感じでなかなか前に進みません。


 今回は船の先頭に重めの荷物をつけているので多少その傾向はましなのですが、今回はそれに加え一つ秘密兵器というか、改造をしてきました。

 スケグです。いわゆる日本語で言うところの固定舵、みたいな感じでしょうか。こいつがあると直進性が増すそうです。「おまえ前回の記事で偉そうに、荷物を先端につければスケグは不要みたいなこと言ってたじゃないか」とお思いのかたもいらっしゃるかと思いますが、私が根拠としていた前回引用先の記事のかたも、欄外コメントをよく見てみると「やっぱりスケグ最高」みたいなことが書かれていたので、別に変なこだわりがなければ装着するに越したことはないようです。今回私は上記のような形状のものを購入し、カヌーの補修などに使われる接着剤で取り付けてみました。ちょっとぐいぐいしてみた限りではちゃんと強度もあるようで、問題なさそうです。
 
 で、改めて今回の瀞場で漕いでみての効果ですが、正直良く分かりません。スケグの効果というのは直進性が多少マシになる、という程度で、これまでよりもひと漕ぎで進む度合いが改善、なんてことは体感できませんでした。つまり瀞場は瀞場、ガツガツ祭りに影響なし、ということです。
 
 それはそうとして、改めて早朝の四万十川です。両側をまんが日本昔ばなしに出てくるような山に囲まれ、たまに聞こえる車の音以外は静寂そのもの。自分のパドルの音だけがあたりに響きます。そして「生きている川」だということを実感するのが、すぐに見えてきた川船。噂に聞いてはいましたが、川で漁をされるかたが多いのでしょう。陸揚げされてる船も少なくなかったのは今は休漁だからでしょうか。流域のかたがたに大事にされている川、というも早速納得です。


 ただ、しばらくガツガツ漕いで、ふと振り返ってみると、まだ江川崎の大きな橋が見えているのに軽く絶望。全然進んでねぇ。これは思っていたよりかなり厳しい戦いになるな...。天気が予報よりマシで、雲の切れ間から日が差してきたのがせめてもの救いです。

 そうこうしているうちに、最初の「瀬と呼んでもいいかも」程度の流れが迫ってきました。おお、流れて快適...と思いきや、水量が足らず、スケグがゴンゴン川底にぶつかります。まあパックラフト本体をこすっているわけではないし、スケグなんて外れてもいいや、と半ばあきらめて最初の瀬を終了。なんといいますか、「むしろあの程度の流れがずっと続いていいよ」という感じなのですが、残念ながらまたすぐに瀞場です。

 比較的新しめ、大きめの国道の橋をくぐると、さらに川面は穏やかに。もはや鏡のようです。海でも湖でもないですが「凪」と表現してもいいかもしれません。一人ガツガツと漕ぐ私だけがおります。...これ、本日の旅程は口屋内までの約10kmだけど、おおむねずっとこんな感じの瀞場なのか...?もしかして10km湖漕ぎ大会??この距離が、このパックラフトを濃いだことのない方にはあまり実感がわかないかもしれませんが、私の個人的な体感で言うと、このパックラフト、LWDで一漕ぎで進む距離が1m位だとすると、全長4m位のインフレータブルカヤックが3m位、モンベル・アルフェックのファルトカヤックが5m位の感じです。つまり五分の一位しか進みません。多少分かってはいたつもりだったのですが、やはり実際やってみるとこれはしんどい。

 
 とはいえ絶望して漕ぐのをやめると、リアルに流れがないのでその場に停止します。これはこれで鏡の上に浮かんでいるようで絶景なのですが、ここでキャンプする覚悟でもない限り、前に進むしかありません。「己を鼓舞せよ」「泣くのが嫌なら、さあ歩け」といろんな年代が混じったネタに励まされながらなんとか漕ぎ続けます。
 
 川岸のはるか向こうで、犬の散歩をさせているおばちゃんが大きく手を振ってくれました。野田さんでしたら早速上陸して交流を深める場面でしょうが、重ねて言いますがコミュ障のわたくしには手を振り返すので精いっぱいです。そうこうしているうちに瀬にも入ってしまい、戻ることもできませんでした。ありがとう、ごめん、おばちゃん。
 
 やがて遠方に、アンティックな感じの赤い陸橋が見えてきました。網代の赤鉄橋だそうです。8時半頃通過。近づいてみると、何本か橋の上から糸が垂らされています。何かの漁の仕掛けでしょうか?支流の合流地点なので、良い漁場なのかもしれません。ただ、カヌーマップには「目黒川。清冽な支流」といった風に書かれていたので多少期待したのですが、残念ながらここを境に水質が改善する、といったようなことはありませんでした。


 このあたりからは「んー、詰んだか?」と思うような、見渡す限りの瀞場、みたいなのが増えてきました。瀞場というよりもはや湖です。「いよいよポーティングか」と覚悟を決めて進むと、岸のように見えた前方にわずかな瀬というか流出路が出現、という状況に何度も遭遇。本当に、たまに来るこういった瀬がオアシスです。
 
 そういった「禅」の時間を過ごすことしばし、ようやく休憩地点と決めていた「岩間沈下橋」が見えてきました。ここは川が大きくカーブするところにかかる橋で、いわゆる「バえる」ポイントだそうです。9時半過ぎに到着。すでに両腕はプルプル来てます。ナイス休憩タイム。