あとがき:ただいまを言うまでが遠足
読む方は「あー無事ゴールしたのね、よかったよかった、終了」で×ボタンを押して閉じてしまってもなんの問題もないのですが、実際に物理的に旅をしているほうは、ここから家まで帰らなければなりません。ただ正直、前回の釧路川の時と違ってここから落とし穴にはまって阿鼻叫喚、みたいなおもしろいオチはなかったので、以降箇条書きで済まそうと思います。
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- 河口付近に、謎の鉄骨むき出し高層建築があり、近寄って調べたところ津波用避難所らしい。この類の建築物は、このあと帰り道でも四国県内のあちこちで見かけた。
- 河口から中村中心街までの帰路は、もちろん行きの追い風が今度は向かい風になり速度低下。往路1時間に対し復路2時間弱を要す。
- 市内のとあるソウルフルなうどん屋さんで昼飯。勝手に四国と言えばうどんだろうと思っていたのだが、お味は山田うどん系。でもまあ店の雰囲気もお客さんも年季が入っており味があった。
- 大いに時間を持て余し、グーグルマップで見つけた中村城跡というのに登ってみた。眺めはよかったが、理解したのはとにかくこの地域一帯は今年のNHK朝の連続テレビ小説「らんまん」の牧野富太郎を全面推しということ。ノボリやらポスターやら。ついでに翌年も四国出身のやなせたかしが主人公ということでウハウハらしい。未だにテレビドラマの舞台になる位で旅行客が押し寄せるという現実にめまいを覚える。
- いよいよやれることが無くなり、早めに中村駅に行って予定より早く特急に乗り、空港に向かう。車窓から見える海の青さよ。そして鉄道料金の高さよ。航空券が往復3万円ちょっとなのに、中村から高知までの鉄道料金は5千円弱。
- 空港についてもなお時間を持て余し、屋上から飛び立つ飛行機を見送る多数の皆様を眺める。本当に皆さん、お年寄りから小さい子まで家族総出で誰かを見送りに来ており、知り合いでもないのになぜか涙を誘われる。
- 空港の「鰹の漬け丼」というのにうなる。後半はだしをかけてだし茶漬け。帰ってきて同じものを作ってみたが、やっぱり空港のやつのほうがどこか一枚上手だった。
- 帰りのJALはなぜかキャビンアテンダントさんが小さい飛行機なのに6-7人もいる。さすがJAL!と思ったが、どうも新人さんの研修中らしい。
- 着陸時のポエム。「オリオン座流星群」「お忙しい日々」「秋の夜空を眺める」by新人さんなのでちょっとかんでる。
- 羽田から電車で帰る時「都会だと3分おきに電車が来るんでしょ?」の大野見のスーパーのかたのお言葉を思い出す。
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帰ってきて今思うのは、やはり2023年現在の四万十川はいうほど田舎でも過疎でも、そして清流でもなかったということです(すみません)。四万十町もあれば四万十市もある位、地域の皆様に愛されている川だというのが痛いほどわかるだけに、あえてここでは私の見たものを正直にご報告すべきだと思いました。
野田さんの著書の中で、流域の住民のかたのお言葉に「このあたりは何も無いものか、なんでもある。あとほしいのはもうちょっとばかり若いひと」というのがありましたが、2023年現在としては、特に江川崎あたりの子供たちの数は目を見張るものがありました。でもそれは、教育機関やスーパーの充実、道路の整備による中核都市への出やすさなど、良くも悪くも単純な「過疎」とは異なる状況に移行しているこの地域の表と裏をなすものであったとも思います。ある意味、昔野田さんがまいた種が色々な形で花開いているのかもしれません。
一方、あまり皆様から注目されず、実際訪問してみても大変失礼ながら「ここはリアル過疎だ」(良い意味で)と思ったのは源流地域です。景色としては自分の出身地、奥武蔵のそれに似ていたのですが、まるで自分の心の原風景をVRかARか何かで見せられたような気分でした。そして、この年にしてささやかながら冒険を計画し、達成したことでなんとなく心の洗浄ができたような気もします。人間、何かに挑戦し続けないとダメになってしまう、少なくとも自分はそういう人間なんだ、ということを随分久方ぶりに思い出せました。
源流から河口まで、道々にある数々の魅力。山、川、美味。これらを自分の足、というか自分のキックボードと自分の船で源流から河口まで一筆書きしたからこそ出会えたいろいろな楽しみと苦労。決して人にお薦めできる旅のスタイルではありませんが、自然の豊かさを味わうだけの川旅とは一味違う、噛み応えのある旅ができました。
また是非、次の機会をうかがって何かしらやらかしてやろうと思います。
さあて、次は何して遊ぼうかな。
* 2024年6月追記:前回と同じく、本ブログ名と同じタイトルでKindle出版しました。内容はここと同じなので、まとめ読みされたい方のみどうぞ。