パックラフトでソロの四万十川

+キックボードで、源流から河口まで辿った2023年秋の記録。

四万十川上流の原風景をコミュニティバスで移動


 さて、ここからはまたある意味でのチャレンジングな行動となる、コミュニティバスでの移動となります。旅の準備の所でも少し書きましたが、このコミュニティバスというものは、以前民営の路線バスが走っていた区間が廃止となってしまい、自治体が代替策として提供している行政サービスの模様です。前回釧路川の旅の際には、直前の電話調査で当初予定のキャンプ場が冬季閉鎖していることが判明し大幅な計画変更を余儀なくされたりしたので、反省を踏まえて今回は3ヶ月以上前に各自治体にこのバスの運行状況を電話でお尋ねしてみました。日常的に町役場になんて電話をかけることもめったにないのに、縁もゆかりもない、はるか離れた高知県の町役場に電話するなんてもうそれだけでドキドキです。
 
 まず、キックボードのゴール地点から乗る予定の津野町ですが、電話していきなり「いったいどういったご用件でしょうか?」と後ろ向きスタンス満載のご対応。事情を説明し、コミュニティバスが地域の移動の手段を趣旨としていることも理解しているので、なんとか短区間だけでも、と丁寧にお願いしてみたつもりだったのですが、「基本的に旅行客向けの手段を想定していないので、ご利用はご遠慮いただきたいのですが...。」と想定していた下限を下回るほぼお断りの状態。そこを何とか、集団でなくて一人の旅行で、乗車区間も○○から××までのごく短いところですから...。」とお願いしたところ、何とか利用をご了承いただけました。ただ最後には、「10月にダイヤ改正を予定しているので、その頃に念のため再度時刻表をホームページでご確認してくださいね」と丁寧なご案内もいただけました。
 
 一方の中土佐町は、もう二つ返事で「あ、いいですよ、どうぞどうぞ」とご快諾。どうも一口にコミュニティバスといっても、自治体ごとに結構スタンスが異なるようです。
 
 という経緯もあり、運行そのものにあまり疑いはもっていなかったのですが、そうはいっても時間通りに来てくれるのか、果たして自分をお客として載せてくれるのか不安は尽きませんでした。そもそもバス停らしき場所も、以前ストリートビューで確認していた場所と微妙に移動しており(以前は集会場の建物の前にあったはずなのに、当日は道路脇に移動していた)小心者のわたくしとしては落ち着いていられません。なにしろ、幼少のころ利用していた地元の路線バスは、たとえバス停の前に立っていても手をしっかりきっかりはっきり上げて運転手さんにアピールしない限りものすごい勢いで通過されてしまったことも少なくなかったのですから。
 
 ですが、ここのコミュニティバスさんはそんな心配は無用で、きっちり予定時刻の10分前頃には現れ(始発の場所なので)何も言わずとも運転手さんから「ご利用ですか?」とお声がけいただけました。予想通りのハイエース車利用ですが、「るんるんバス」と独自の意匠がほどこされた立派な専用車です。でもお客は私一人ですが。
 
 荷物をもって席に乗り込みます。用意してある透明アクリルの箱に運賃を投入。百円。お賽銭のようです。ザックとキックボードを足元においても一人分以上のスペースははみ出したりしていません。移動速度は自転車にはかないませんが、コミュニティバスを利用できるという点ではあきらかにキックボードのほうが一歩秀でています。
 
 バスはきっちり定刻14時20分に船戸集会所を出発しました。運転手さんはもとから乗客が少ない路線の上、めずらしいよそ者の客ということで色々お話してくれました。
 
 普段からほとんど利用者がいない。そうですか町役場では旅行利用は断られかけましたが。運行しているほうとしてはぜんぜんかまわんのですが。ちょっと前までは路線バスが走ってたんですが、なくなっちゃったんで自治体ごとの運行になったんですが、一応津野町中土佐町で多少の申し合わせがしてあって、乗り継ぎできないこともないような運航時刻になっているんですよ。ただ実際に乗り継いで使ったお客さんは、ここ何年かで数組くらいかな、法事ででかけるとか。ほお、キックボードとカヌーで移動ですか。まあよくそれで移動されようと思いましたね。
 
 などなどお話している間に、あっという間に目的のバス停、下桑ケ市に到着。バスはここでUターンして元来た道を戻っていきました。私はここから徒歩で中土佐町側のバス停まで移動です。といってもたったの三百メートル弱、キックボードを出すまでもありません。途中町境の標識を通過します。金の切れ目が縁の切れ目と言いますが、ここでは路線バスの切れ目が縁の切れ目ですかね。このくらいの距離なら同じ場所に両自治体のバス停を共同でもってもいい気がするのですが、需要もないでしょうしいろいろもっと難しいことも多いのでしょうね。


 さてさて、到着したバス停の名前は上高樋 (うえたかひ)。うん、ただの田舎の農村風景だ。ていうか、標識もなぜかすでに相当年季が入っており、さっきのバス停とはまた別の意味で「本当に来るのか」とドキドキ感が満載です。
 
 バスの予定時刻までは30分以上ありました。実はここから数百メートルの所に、四万十川最上流の沈下橋というのがあるらしく、デイリーポータルの人はわざわざそこに見に行っていたようなので、私も時間があれば是非、と思っていたのですが、30分ならまあキックボードなら行けるか?と思って用意しだしたその瞬間に、おそらくあれに乗ることになるだろうと思われるコミュニティバスが通過。どうやら、ここのバス停に車を停車しておくスペースがないせいで、どこかもっと向こうのほうで停車して待機するようです。

 それはそれでいいのですが、もし万が一気の早い運転手さんで予定時刻より早めに通過されてしまうと、もうこちらは詰みです。ということでここでも小心者のわたくしは沈下橋をあきらめ、こののどかな風景を30分一本勝負で眺めて過ごすことにしました。言われてみれば、わたくしは別段橋マニアなわけではなく、どちらかというと重視しているのは「源流から河口まで」の四万十川の風景を肉眼で目視確認するほうでした。

 まあ実際正直な話、このあたりでもやっぱり奥武蔵のわたしの地元と大差ない景色が広がるわけですが。改めてこうして何もすることがなくただ景色を眺めてみて、既視感を感じてしまう理由を考えたところ、理由は植林の杉林である気がしました。この田んぼと杉林の光景というのは、現代の郊外のバイパス沿いの街並みにも通じるところがあり、日本全国北から南までどこにいっても同じような景色が広がってしまいます。これがもともとの雑木林であればあるいは違った印象になったのではないかとも思います。
 
 さて、意外と30分はあっさり過ぎ、通過されてしまうこともなく無事コミュニティバスが停車してくれ、ほぼ先ほどと同じ仕様の車両に乗り込みます。こちらも賽銭箱に百円を投入。こちらの運転手さんは先ほどとは対照的に寡黙な人で、ほとんどお話しすることはありませんでした。出発してすぐのころに、気にしていた最上流の沈下橋の横も通過したのですが、当然というかなんというか、特段何の解説もありません。

 ただ、目の前に掲示してあるコミュニティバス路線図の中央に赤字でくっきりはっきりと「著しく利用が少ない路線は、運行停止も含めた見直しの対象とさせていただきます。」の圧力がものすごく、そればかり気になりました。
 
 さて、道はほどなく片側一車線で真っすぐ小ぎれい、立派なバイパス道路になったのですが、バスはそこを直進せず、ちょこちょこ道をそれては旧道の集落のほうを通ります。考えてみれば当然で、コミュニティバスですから乗降客の利便性を踏まえ極力集落の中を通っていくのが合理的です。ただ、やっぱりこの路線もお客は私一人でしたが。あと、このなだらかで真っすぐなバイパスの道は、案外キックボードで移動してもさほど労なく到着できたのではないかとも思いました。まあ、コミュニティバスのほうが断然楽ですが。

 そしてバスはだんだんと山奥のバイパス道路から多少開けた地域に進み、大野見というこのあたりではそこそこ大きめの集落に到着です。ここからはいよいよキックボード移動に切り替え、商店で買い出し後キャンプ場に移動します。